「先が丸いブラシは優しい」の誤解。現役サロンオーナーが教える、本当に犬に必要なブラッシング道具と正しい選び方

ゴールデンレトリバーがブラッシングされている様子 トリミング

「俺の散髪代より、犬の毛玉料金のほうが高いなんて……」

前回の記事で、そんな風にちょっぴりショックを受けていたお客様のお話をしました。

そのお客様、実は次のご来店のときに、ものすごく嬉しそうな顔をしてこうおっしゃったんです。

「連れて帰ってから、ネットで『おすすめ1位』になってたブラシを急いで買ったよ!これで毎日ブラッシングするから、もう毛玉料金はかからないはず!」

その手元にあったのは、ネットの記事で大絶賛されていた、ピンの先っぽに丸いポッチがついた「玉付きのスリッカーブラシ」でした。

お客様の「愛犬に痛い思いをさせたくない」という優しい気持ちが溢れていて、私はトリマーとして本当に嬉しかったです。

嬉しかった……のですが。

心のなかで、ほんの少しだけ、頭を抱えてしまいました。

なぜなら、ネットにあふれる「おすすめ犬用ブラシ○選!」といった情報のなかには、プロの目から見ると「逆にワンちゃんに痛い思いをさせてしまう誤解」が、当たり前のように紛れ込んでいるからです。

良かれと思って選んだ道具が、実は毛玉を悪化させ、結果的にワンちゃんを苦しめているかもしれない――。

今日は現役のサロンオーナーとして、ネットのウソ・ホントを本音で仕分けし、本当に必要な道具だけを厳選してご紹介します。

誤解①:「先が丸いブラシは犬に優しい」の落とし穴

ホームセンターやネット通販でよく見かけるのが、ピンの先に丸いゴムやプラスチックがついた「玉付き」のスリッカーブラシです。

キャッチコピーには「皮膚を傷つけない」「先が丸いから痛くない」と書かれていて、一見、ワンちゃんのことを一番に考えた素晴らしい道具に見えますよね。

実際、皮膚がとてもデリケートな子や、毛の短いシングルコートの犬種(パグやフレンチブルドッグなど)の「皮膚をなでるようなブラッシング」には、このクッション性はとても役立ちます。メーカーさんも、そういったワンちゃんの安心安全を思って作られているのだと思います。

ですが、もしあなたの愛犬が、トイプードルやシーズー、マルチーズのような「毛が伸びる・もつれやすい犬種」なら、話は別です。

実はここに、大きな盲点があります。 ピンの先にある「玉」の厚みのせいで、一番もつれやすい『毛の根元』までブラシが届かないのです。

毛玉というのは、毛の先からは出来ないんです。むしろ皮膚に近い「毛の根元」や「毛の途中」から絡まって育ちます。

先が丸いブラシでいくらシャカシャカとブラッシングしても、玉が邪魔をして、表面の毛を優しく撫でているだけになってしまうのです。

「表面はサラサラなのに、めくってみたら皮膚の上が毛玉の鎧(よろい)になっていた」

これが、玉付きブラシを使っているお家で毎日のように起きている悲劇です。

結局、根元で育った頑固な毛玉をトリミングサロンでギリギリからバリカンで剃ることになり、ワンちゃんに余計な負担をかけることになります。

「でも、先が尖っているブラシは痛そうで怖い……」

そう思うかもしれません。

ですが、大事なのは「道具の形」ではなく、「正しいピンの当て方と力加減」です。プロが使うブラシは先が尖っていますが、私たちはワンちゃんの皮膚を絶対に傷つけません。力を入れず、正しい角度で当てれば、尖っているブラシのほうが圧倒的に早く、痛くなく毛玉を解くことができるのです。

誤解②:「ゴッソリ毛が取れて気持ちいい」の危険なサイン

ネットやSNSでもう一つ大人気なのが、刃がついたアンダーコート(下毛)除去ブラシです。

「なでるだけで信じられないくらい毛が抜ける!」「おもしろいほどゴッソリ取れる!」と、動画付きで紹介されているのを一度は見かけたことがあるのではないでしょうか。

確かに、換毛期(毛が生え変わる時期)の柴犬などの犬種には効果を発揮することがあります。

ですが、これをトイプードルなどのシングルコートの犬種や、すでに絡まってしまった「毛玉ほぐし」に使おうとしているなら、それは非常に危険です。

なぜなら、あのタイプのブラシは毛をほぐしているのではなく、絡まった毛を「刃で引きちぎっている」だけになる場合が多いんです。

「たくさん取れてスッキリした!」と思っているその毛、実は抜けるべきではない健康な毛まで一緒にブチブチと切れてしまっています。これを繰り返すと、ワンちゃんのデリケートな被毛はボロボロに傷み、さらに毛玉ができやすい「最悪のごわごわ毛質」へと変わっていってしまうのです。

「じゃあ、プロは一体何を使ってあの頑固な毛玉を解いているの?」

お待たせしました。ここからは、私が自分のサロンで毎日自腹を切ってでも使い続けたい、「これさえあれば間違いない」という3つの神道具を本音でご紹介します。

現役トリマーが自腹でもこれを選ぶ。スリッカーブラシの正解

世の中には何千円もする高級な獣毛ブラシや、海外製の珍しい道具がたくさんありますが、飼い主さんがおうちで使うなら、これ1本だけで世界が変わります。

【推し その1】SHOW TECHショーテック スリッカー(ソフト)

プロのトリマーで知らない人はいない、ベルギー製の超名作スリッカーです。

一見、普通のブラシに見えますが、触った瞬間に驚くのが「ピンの絶妙なしなやかさと長さ」。

ホームセンターの硬いブラシと違って、ピンが柔らかくしなるため、力を入れなくても毛玉の芯までスルッと届きます。そして何より、本体がものすごく軽いので、手首を痛めずにリズミカルに動かすことができるんです。

そして、このブラシをおすすめする最大の理由は、それは本体が「プラスチック製」であること。

「え、木製のほうが高級感があって長く使えて良くない?」と思うかもしれません。

もしこれが従来の「金属製」のブラシだと、ドライヤーの熱を吸って、ブラシ表面がカンカンに熱くなってしまうんです。

熱くなったブラシがワンちゃんの皮膚に触れたらどうなるか……想像するだけで恐ろしいですよね。
実際に、私たちトリマーもドライヤーしている最中に、犬にスリッカーの表面が当たらずとも、私たちの手には当たってしまい「あっっっつ!」となったことは一度や二度ではありません。

その点、ショーテックは本体がプラスチック製なので、ドライヤーの熱風を浴び続けても熱くなりません。犬を火傷(やけど)させるリスクを極限まで減らせる、本当に優しい設計なんです。

まずはレギュラーサイズの「ソフト」を選んでみてください。トイプードルなどのロングコートのワンちゃんには、これ以上ない救世主になります。

もちろん、普段からしっかりブラッシングをしていて、そもそも毛玉がない子は球ありのスリッカーで、全然大丈夫だと思います。


知ってた?スリッカーは「年1買い替え」の消耗品です

ここで、ほとんどの飼い主さんが驚かれる真実をお伝えします。

スリッカーブラシは、一生モノではありません。「年に1回は買い替える消耗品」です。

毎日使っていると、ピンの先っぽが「Jの字」や「くの字」「外側に向かって」に折れ曲がったり、何本か抜けてしまったりします。

ピンが外側に折れ曲がって劣化したスリッカーブラシ
使い込んでピンが外側に折れ曲がったスリッカー。これでは毛に正しく当たらず、犬の皮膚をチクチク刺してしまいます。

こんな風に変形してしまったブラシは、どれだけプロが優しく当てても、ワンちゃんの皮膚をチクチクと刺す「ただの凶器」になってしまいます。昨日まで大人しかった愛犬が、急にブラッシングを嫌がるようになったら、それはブラシの寿命のサインかもしれません。

「毎年3,000円ほどのブラシを買い替えるなんて、ちょっともったいないな……」

そう思う方もいるかもしれません。

でも、へたったブラシを使い続けて頑固な毛玉を作り、トリミングのたびに「追加の毛玉料金(例えば1,500円ほど)」を払い続けるのと、年1回だけ良いブラシに新調して、追加料金をずっとゼロにするの、どちらがワンちゃんとお財布に優しいでしょうか?

答えは、言うまでもありませんよね。

コーム(櫛)の役割を「ノミ取り」と勘違いしていませんか?

スリッカーブラシの次に、必ずセットで揃えてほしいのが「コーム」です。

ときどき、お客様から「うちの子はノミがいないから、コームはいらないよね?」と言われることがあります。どうやら、目の細かい「ノミ取り櫛」と勘違いされている方が多いようです。

断言します。コームなしのブラッシングは、テスト勉強をしたのに答え合わせをせずに本番に挑むようなものです。

「毎日一生懸命ブラシをかけているのに、サロンに行ったら毛玉料金を取られた!」という悲劇。これ、実は飼い主さんのせいではなく、コームを使っていないことが原因なんです。

スリッカーブラシは、毛を「ほぐす」道具。

コームは、毛が本当にほぐれたかを「確認する」道具です。

人間の髪の毛を想像してみてください。表面だけをササッとブラシで梳かして「よし、綺麗!」と思っても、いざ目の細かい櫛を根元から通してみたら、途中でガチッと引っかかることがありますよね。ワンちゃんの毛も、全く同じことが起きています。

使い方はシンプルです。スリッカーで全体を優しくほぐした後、コームを皮膚に対して平行に、根元から毛先に向かってスーッと通してみるだけ。

もし途中でコームがピタッと止まったら、そこに「飼い主さんの目には見えない、隠れた毛玉の赤ちゃん」がいます。そこをもう一度スリッカーで狙い撃ちしてほぐす。これが、プロが絶対に毛玉を見落とさない秘密です。

【推し その2】ショーテックのコーム

コームも、私はスリッカーと同じショーテックのものをおすすめしています。

「コームなんて、どれも同じでしょ?」——そう思われがちですが、実は結構、差が出るんです。

まず、ピン先(櫛の先端)の加工。

安すぎるコームは、ピンの先がしっかり加工されておらず、肌当たりが痛いものがあります。せっかくスリッカーで優しくほぐしても、仕上げのコームで痛い思いをさせたら、元も子もありません。

ショーテックのコームは、先端がしっかりと丸く加工されているので、肌当たりが優しい。しかもピンが折れにくく、長く使えます。

そしてもう一つ、意外なポイントが「重さ」です。

スリッカーは「軽いほどいい」とお伝えしましたが、コームは逆

個人的には、軽すぎるコームは使いづらいと感じています。

適度な重さがあると、自分の手首で力を入れなくても、コーム自体の重みでスーッと毛が梳けるんです。むしろ軽い力で、きれいにとかせる。

半分が粗い目、半分が細かい目になった「両目タイプ」を選べば、これ1本で全身のチェックからお顔周りの仕上げまでカバーできます。


もつれを「取る」のではなく「最初から作らせない」新習慣

ここまで道具の選び方をお話ししてきましたが、ここでトリマーとしての本音をひとつ。

「できてしまった頑固な毛玉を、一瞬で消し去る魔法のブラシ」「魔法のスプレー」はこの世に存在しません。

以前、「毛玉ほぐしスプレー買ったの、全然毛玉解けなかった」と仰った飼い主さんがいました。
その方は、スプレーして、ひと櫛ブラシをあてたら、スルッと毛玉だけとれる…と思ったそうです。
なにせ、商品説明には「スルスルとける!」って書いてありますしね…(苦笑)

どれだけ良いブラシを使っても、大きな毛玉を解くのには時間がかかりますし、ワンちゃんにも少なからず負担がかかります。だからこそ、一番大切なのは、毛玉を「取る技術」ではなく、「毛玉を作らせない予防の習慣」なんです。

その習慣を、驚くほど簡単にしてくれるのがこのブラッシングスプレーです。

【推し その3】ARTERO アルテロ フラッシュシャイン・コンディショナー

スペインの老舗トップブランド「アルテロ」が作った、プロ御用達の仕上げ用コンディショニングスプレーです。

これ、本当にすごいです。シュッと一吹きしてブラシを通すだけで、被毛の表面がシルクのようにコーティングされます。

特におすすめなのが、お散歩に出かける前。
お洋服を着るワンちゃんなら服が擦れる「脇や首回り」や
歩くときに擦れ合う「お腹や足元」に事前に吹きかけておきます。これだけで、摩擦による静電気がバチッと抑えられ、毛玉の原因になる草むらのゴミやホコリが絡みつくのを劇的に防いでくれるんです。

特に落ち葉や枯草の多い季節は、足先にすこーし多めにスプレーするだけで
足に葉っぱがつかないんです。
うちの犬は足をフレアカット、お尻をパンツにしているんで、毎日のお散歩のときにすごく役立ちます。

※本音レビュー:香りは海外っぽく強めです(笑)

唯一お伝えしておくと、海外の高級サロンを思わせるような、甘く華やかな香りがしっかり残ります。「無香料じゃないと絶対ダメ!」という方にはおすすめしませんが、そのぶんワンちゃん特有の体臭を上品に消臭してくれますし、何より次のトリミングまで「サラサラ感」が信じられないくらい持続します。

毎日使う必要はありません。2〜3日に1回、お散歩前やブラッシングの前に取り入れるだけで、サロン帰りのあの極上の手触りがずっとおうちでキープできますよ。


まとめ:最高の道具を買っても、使い方が違えば意味がない

今回は、ネットの情報に惑わされないための「本当に正しいブラッシング道具」についてお届けしました。

  • スリッカーは「先が尖ったソフトタイプ(ショーテック)」を選ぶ
  • 表面だけで満足せず、「ショーテックのコーム」で根元の答え合わせをする
  • 「フラッシュシャインスプレー(アルテロ)」で、擦れる部分の毛玉を先回りして予防する

ネットでおすすめされている1,000円のブラシをなんとなく使い続け、愛犬に痛い思いをさせながら、毎回1,500円ほどの毛玉料金を払い続けるか。

それとも、プロお墨付きの道具を揃えて、愛犬とのブラッシングタイムを「気持ちいい癒しの時間」に変え、未来の余計な出費をゼロにするか。

この記事を読んでくださったあなたなら、どちらが本当に愛犬のためになるか、もう分かりますよね♪


毛玉そのものについては、こちらの2記事で詳しく書いています。あわせて読むと、今日の話がもっと腑に落ちるはずです。

📝 犬の毛玉、触ってわからないからこそ怖い。現役サロンオーナーが本気で解説する4つの誤解と真実

📝 「俺の散髪代より高い」と言われる、犬の毛玉料金。現役サロンオーナーが、その理由を本音で説明します

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